2024年5月、AOKIホールディングスは、2024年~2026年度3ヶ年の「中期経営計画2024~2026年度」(以下、「新中計」)を策定するとともに、初めてその内容を公表しました。
その背景には、2022年に発生した当社のガバナンス問題解決のため、当社グループの成長への方向性や目標数値とともに、ガバナンスをはじめとした経営基盤強化に向けた取り組み状況を広く発信する必要性がありました。
また、経済や社会がコロナ禍以前の日常に戻りつつあるとはいえ、世界ではウクライナ侵攻や中東情勢の悪化によるエネルギーコストや原材料価格の高騰が続き、国内では人手不足による人件費の増加も加わり、お客様の生活防衛意識はますます高まっています。こうしたなか、接客を軸としたB to C事業を営む当社グループの方向性を明確に示すことは、最も重要な経営資源である「人財」のモチベーションを維持し高めていくためにも、採用の場面や、従業員に安心して長く働いていただくうえでも不可欠と考えています。
こうした考えを踏まえ、新中計では、改めて当社を取り巻く事業環境の変化を再認識しながら「10年後のありたい姿」を描き、そこからバックキャストするかたちで「各事業の既存ビジネスモデルの改革」「新たな成長に向けた新規事業の創造」を打ち出しました。
その主要施策をご紹介する前に、新中計のコンセプト「RISING 2026」に関する一つのエピソードを紹介したいと思います。それは、取締役会における「過去の最高益に達していない目標数字でRISINGと言えるのか?」という声に対する若手・中堅社員の反応です。確かに、経営陣としては経営計画を数字で定義する思考は間違いではありませんが、若手・中堅社員たちとの議論では「数字は結果。それよりもビジネスモデルを変革する、新しい事業の柱に挑戦することこそがAOKIグループにとってのRISINGだ」という声が大半でした。新しいことへの挑戦というAOKIグループのDNAを受け継ぐ志をもつ多くの社員とともに、既存の延長線上にはない新しい成長ストーリーをつくっていこう。改めてその決意を強く抱いた出来事でした。
新中計では、計画期間の3ヶ年を「既存ビジネスの刷新・収益性向上」と「新規事業の開発」を通じて“事業ポートフォリオを再構築するステージ”と位置づけています。特に主力3事業では、「転換」「刷新」「進化」といった旗印を掲げ、これまでの事業モデルの抜本的な見直し・磨き上げを図っていきます。また、事業改革や新規事業開発にあたっては、若年層や高齢者、女性などあらゆるお客様のライフステージを視野に当社グループの事業を拡大するとともに、他社との協業やM&Aにも取り組むなど、「10年後のありたい姿」に近づいていけるように努めていきます。
業績目標としては、10年後の営業利益を300億円とし、3年間で年率10%前後の利益成長を実現しながら2026年度に180億円の到達を掲げています。そして、次期の中計期間中にはその成長曲線が最高益を更新するイメージを描いています。
一方、財務的指標としては2026年度のPBR1.0倍の達成を目標とし、特に資本収益性や投資効率の向上に向けては、AOKIホールディングスが主導して各事業会社の取り組みをコントロールしていきます。
新中計では、これらグループとしての成長を支えるために必要な経営基盤―人財や店舗網、ITインフラ、顧客データなどの強化・活用を掲げ、グループ共有ノウハウやアセットを活用したシナジーを追求・発揮していくこと、ガバナンスを一層強化することを明示しました。
まず、「人財」面については、当社グループにおける最優先事項と位置づけ、優秀な人財の安定的な採用と育成に取り組んでいきます。特に育成に関しては、長年にわたって多様な業態のチェーンストア・オペレーションを手掛けてきたノウハウを活かした教育プログラムのアップデートや、業態の異なる店舗間での柔軟な人財配置などを実践していきます。
また、現在約1,400店ある当社グループの「店舗網」については、事業の枠組みを超えた活用を図っていきます。例えば、ファッション事業の一部の店舗では利用床面積を圧縮し、そのスペースにグループ内のエンターテイメント事業が運営するインドアゴルフや外部企業のテナントを新たに誘致するなど、客層・客数の拡大と店舗効率の向上により、収益性の向上を図っていきます。また、駐車場スペースでも、2023年には新たな形態の太陽光発電設備の設置に加え、EV充電設備を導入し、充電サービス事業を開始しました。
さらに、こうした施策の効果を最大限に発揮していくカギを握るのが、「ITインフラ」や「顧客データ」です。当社グループは、事業セグメントごとに推進するマーケティング活動、関連するDX施策などと合わせて、これまで蓄積してきた4,500万人以上の会員データを資産と位置づけ、グループで有効活用できるような情報インフラ基盤の構築を検討していきます。
一方、「ガバナンス検証・改革委員会」の提言などを踏まえたガバナンス強化も引き続き重要テーマの一つです。監査等委員会設置会社への移行をはじめ、同委員会からの5つの大項目、80数項目の提言に一つひとつ対応してきました。今後も社外取締役の監督機能の強化や、指名・報酬委員会の実効性向上と権限強化、取締役会実効性評価からの課題などをテーマとした勉強会の実施、取締役の構成見直しなど、さらなるガバナンス体制の強化、最適化に取り組んでまいります。
最後になりましたが、今回、AOKIグループの中期経営計画「RISING 2026」を初めて公表するに至り、株主、投資家の皆様をはじめ、お取引先様や従業員から従来に増して多くのお声を頂戴しています。方針や施策への賛否はあれ、頂戴したお声を踏まえつつ、個々の施策を短期・中期・長期の視点で絶えず検証しながら「10年後のありたい姿」を目指していくことに変わりはありません。また、その基盤となるガバナンスは、事業改革や新規事業の創出を通じて社内外の多様なステークホルダーの皆様との協働を推進するAOKIグループにとって不可欠の取り組みであり、改めて強化し続けていくことをここにお約束します。
これらの取り組みを通じて「人々の喜びを創造する」AOKIグループのDNAを多くのステークホルダーの皆様に実感いただけるよう邁進してまいります。